投稿者:産み猫氏
皆さんは、サバイバルゲームという遊びをご存知であろうか。いい年した大人がオモチャの鉄砲を持って、「当てたの、当てられたの」、といって遊ぶしょうもない遊びである。
通常は昼間に行われるこの遊びであるが、しばしば「夜戦」が行われる。昼間でも人気のない戦場は、夜ともなれば尚更うら寂しい薄気味悪い場所となり、死体の一つでも落ちていて一向に不思議でなく思えてくる。
実際、車で入っていける森や廃墟という場所は、自殺者も多く、我々サバイバルゲーマーが死体の発見者となる事も度々ある。
「こんな無気味な所に入って、遊べるのか?」と、普通は思われるだろうが、都市近郊でサバイバルゲームを出来るような所は限られているので、多少の不自由は押してやってしまうのだ。
冬、荒れ果てた河川敷に列車のコンテナが打ち捨てられている。周囲には寿命を全うしてか、持ち主に飽きられてか、機能を失い亡骸となった家電製品が堆く積まれている。
今日の攻撃目標はこれだ。ガラクタの中に潜む敵散兵を掃討し、コンテナを占領すれば作戦は成功となる。敵の射程外からサーチライトが舐めるように地面を照らし、怪しげなところを見つけるとカービン銃を持った自分が掃射を加える。その隙に短機関銃を持ったほかのメンバーが敵側面に進出し、一つ、又一つと敵の抵抗を排除していく。
後一息でコンテナは陥落する。コンテナ前面の最後の抵抗線に向けて、今正に最後の攻勢をかけようとした時、「やられたー!」
なんとコンテナを守っていた敵兵が出てきた。
誰も撃っていない筈なのに。
そいつ曰く、「真後ろからやられたぜ、ゴムナイフでだ」。しかし、当日ゴムナイフなんか持ってきている奴は居ない。仮に持っていてもお飾りで、銃相手にそんな物を使う奴は居ない。
第一、コンテナの入り口は正面だけだから後ろになど回れっこなかったのだ。
秋、夕暮れから続く敵陣地攻撃、何度も正面から挑みかかるも徒に損害を出すだけ。業を煮やした指揮官は新たな進撃ルート開拓の為、私を含む3人を偵察に出した。
偵察に出た先は3mほどの高さの潅木林が続く湿地帯。生暖かい泥を踏みしめながら陰鬱極まる茂みを掻き分けながら進む。鷺が不意に人間そっくりの叫び声を上げながら飛び立つ。
林の中じゅうずっと続いているかに思えた湿地は途中で途切れ、行く手は緩やかな勾配になっていた。草の薄いところを探して登っていくと、不意に前面に白っぽいベニア小屋が現れた。それは満月の柔らかな光に包まれ、幻想的に浮かび上がって見えた。
「おい、こんな所に小屋があるなんて聞いてたか?」
「いや、明るいうちにホームレスの小屋は全て調べた筈。ここは無人だ。見ろ、こんな所に立てるから増水で屋根まで泥を被っているじゃあないか」
3人は用心深くカラシニコフ突撃銃を構え、小屋に近づいていく。確かに半壊した小屋は、白い泥に覆われ、人が出入りしている様子は無かった。
「一応調べていこう、敵が利用しているかもしれない」
私が入り口の筵を銃の照星で引っ掻けた時に「ガササッ」 中で音がした、敵かもしれない。
後の二人が入り口に銃口を向けているのを確認し、私が中に向け話しかける。
「我々は北ベトナム人民軍の偵察の者だ返事が無ければ攻撃する」
(この時の自分は北ベトナム兵の役) 返事は無い。
意を決して筵を一気に跳ね除けると
「バタタタタタターーー!!!!」
中から不意に連射音にそっくりの音が聞こえたからたまげた!全員の銃が火を吹く。その音はさながら一同の叫び声を代弁するかのごとき轟音となって響きわたった。実際なにかを叫んでいたと思うが何と言っていたのか今では思い出せない。
あまりの事に私達は今きた道を(と言うよりはむしろめちゃくちゃに泥の中を)走って逃げ帰った。
翌朝、例の小屋のことが話題に上り、「誰か小屋に隠れてた?」と聞いてみるが、敵方を含め、「そんな小屋、有る事すら知らなかった」と誰もいなかった様子。もしかして昨晩自分達が銃撃したのは無関係の第三者?そんな事になっていたら一大事。早速ゲーム開催責任者と青くなって現場を見に言った。
朝日に包まれた小屋の筵を改めてどけて見るとそこには
白骨化した足がにょっきりと伸びていた。
辺りには鳥の羽が散乱していた。連射音の正体はここをねぐらにしていた鳥の仕業であろう。
遺体の着衣は冬物、きっと去年の冬に亡くなって一夏を越えたのであろう。遺体にはほとんど肉は残っていなかった。
夜戦は時々こんな事が有るから必要以上にスリル万点。霊や死体との息詰まるリアルバトルは、一度味わうと「もう二度とご免」と思うんだけれども、又忘れた頃に誰かが「夜戦やらない?」といったら「怖いから行かない」 という奴が一人も居ないのも不思議な話しだ。
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