ミドリガメのサチコちゃん 其の四

投稿者:ヤウジロウ


サチコちゃんはとても賢いミドリガメなのだ。と言うのも、大学の生物の時間に「学習行動」という心理行動を教わった事から始まる。学習行動というのは、例えば犬の耳に息を吹き突きつけると、始めは嫌がるが、何回も繰返す事で学習し、息を吹きかけても嫌がらなくなる、というものだ。つまり、「動物は何度も同じ事を繰返せば学習する事ができる。」ということなのだ。

それを学んだ僕は、早速サチコちゃんにも試してみる事にした。(単純

学習させたい事は「餌が欲しい時は餌缶に近寄ってくる。」というものだ。その為にはまず、餌が餌缶から出てくる事を覚えさせる必要がある。そこで、餌を与えた時、サチコちゃんが餌に食いつくまで餌缶を指で叩いた。こうする事によって、音と缶が振られる映像で学習が更に固定しやすくするのだ。

結果は大成功。缶を水槽の前で振るとサチコちゃんは近寄ってくる。もちろん、30秒以上缶を振っても近寄ってこない時は、餌は一日お預けだ。お陰でサチコちゃんは餌缶を覚えた。

しかし、暫くして賢すぎるのもどうかと思うことになろうとは・・・


サチコちゃんの餌は朝10粒と決っている。本当は一日2〜3回、10分程度で食べられる量が正しい餌の与え方だ。しかし、ミドリガメという生き物は、もの凄く大きくなる。僕が始めてサチコちゃんと出合った2年前の大きさに比べれば、今はその倍はあるだろう。適正どおりの量を与えていたら、もっと大きくなっていたに違いない。1人暮らしにカメ如きの餌に600円は高いのだ。

つまり、サチコちゃんは常に腹ペコの状態だ。そのせいで、餌が欲しいばかりに、隣に置いてある缶を見ると、水槽の壁をよじ登って、傍に近寄ろうとする。お陰で夜は、水槽からずり落ちる音で五月蝿い。(夜行性だからね

岩場の上から水槽の高さまでは、約サチコちゃん一個分。手が届くか届かない程度の高さだ。

暫く試行錯誤した結果、サチコちゃんは

「岩場に登れば水槽から脱出できる」

と分かったらしく、それから岩場の上での水槽刑務所脱獄行動が多くなった。


ある日、僕が起きるとサチコちゃんはいない。

岩場の下に隠れてるのか?・・・どけてみるが居ない・・・

「・・・・・・脱走!?まさかミドリガメ如きが、猿並の頭脳を発揮し、大笑点のナポレオンズが如く、この水槽から奇跡の脱出をしたとでも言うのか!?」

しかし、水槽が置かれているのはストーブの上。高さにして約90cm・・・

「脱出できてもこの高さだ・・・まさか、ここから紐なしバンジーを?奴め、いつの間にそんな度胸を・・・」

ストーブの周りを調べてみると、ファンの下にひっくり返ったサチコちゃんを発見。どうやら狭いスペースの為、起き上がることが出来ないらしい。

僕はサチコちゃんを現行犯逮捕し、水槽に護送した。


そこまで学習できるサチコちゃんだが、どうしても覚えてくれない事がある。それは、自分が大きくなってしまった為、

もう、サイズ的に岩場の入口に入ることが出来ない。

ということだ。どうも気分は昔のままらしく、岩場の下へ入ろうとする。入口の直径約10cm。サチコちゃん、現在約13cm・・・入れない筈だ・・・入れない筈なのに、サチコちゃんは今、岩場の下に入っている。

そう、岩場の直径は10cmでも、実は体を斜めにすることで、入ることが可能なのだ!


って、頭のいいように思うかもしれないが、所詮入った所でデカ過ぎる体は突っかかり、岩場の中でUーターン出来ずに糞詰まり・・・

「愚か者ぉ!!入るのは構わないけどな。自分の力で出て来れるようにしとけ!」


フッ、まだまだ詰めが甘いな・・・サチコよ

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