ミドリガメのサチコちゃん 其の弐

投稿者:ヤウジロウ


サチコちゃんを飼う為には、それなりの装備が必要だ。カメは、水槽で水辺環境を作らなくてはいけない事くらいは、T山さんも分かっていたらしい。

しかし、T山さんの財布は軽い。常にお金にヒィヒィ言っている人だ。そんな人がカメ飼育セットを飼うお金などあるわけが無い。

そこで、簡易飼育セットを用意した。水槽の代わりは、とりあえず「水が溜まればいい」という考えから、タッパを用意。暫くはタッパ生活を強いられたサチコちゃんだった。

ある日、授業から帰ってくるとタッパの水面が七色に光っている。タッパの横には、賞味期限の切れた鮭フレーク。

「これは確か、冷蔵庫の奥底に封印してあったはず・・・まさか、遺跡と化した冷蔵庫から発掘したとでもいうのか!?」

タッパの横に無造作に置かれる鮭フレーク。その封は半分空いている・・・

「まさか!!」

その利用価値が、酒を冷やす為だけになっている遺跡改め冷蔵庫の奥地から鮭フレークを発掘し、まさか開封していようとは・・・しかし、真の問題はそこではない。問題は、その封印を解き、中身のフレークを何に使用したのか、ということだ。

その時、僕の頭でバラバラのピースがピッタリと填っていく。

開封された賞味期限の切れた鮭フレーク。

テーブルの上には、T山さんのお昼ご飯だろうカップラーメンのゴミ。

七色に光るタッパの水。

「ワトソン君、謎は全て解けたよ。」

そう、T山さんは自分のご飯を食べながら、サチコちゃんに餌を上げた。しかし、市販のカメの餌はまだ買っていなじゃないか。そこで冷蔵庫の探索をしたところ、鮭フレーク発見。開封後そのフレークを投下・・・


僕は恐る恐る鮭フレークを水に投下・・・水面にフレークが接触すると七色に光る綺麗な幕が出現した。やはり、鮭の油だ。水面を油で埋め尽くされたサチコちゃんは、タッパの隅で蹲っている。しかもT山さんが与えたフレークは、水を含みタッパのそこで漂っている。


「って、食ってねぇのかよ!」


と、サマ〜ズの三村突っ込み的な発言をし、僕はタッパを持って洗面所へダッシュ。急いでタッパとサチコちゃんをウォッシング。

そう、サチコちゃんにとっては未知なる物体が降って来て、水面を七色の光る幕で覆われた為水の循環が悪くなり、1日で水は半透明。T山さんは餌のつもりで与えたのだろうが、ありがた迷惑。顔を出して息をしようにも、油が顔につくので出せない現状。

「なぁ、サチコよ。カメ釣りゲームの水槽の中と、この状況・・・お前は本当に幸せなのかい?」

そう、サチコちゃんに聞きたかったが、この状況下でそんな事は言えまいて。


後日、T山さんにその事を告げると「流石にまずい」と思ったのか、ちゃんとしたカメ飼育セットを買ってきた。

しかし、タッパを洗った事をきっかけに、まさか僕にその後の世話係が回って来ようとは・・・

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